このラノ2006分析(3) このラノ値集計

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前々回前回に引き続き、このライトノベルがすごい! 2006*1で公表された作品ランキングのデータをもとに、色々考えてみたいと思います。これまで同様、《60位までに入った作品の作家別集計》です。票や得点の分布に公開されていないものがありますので、あくまで近似値です。ご注意ください。
今回の分析対象は、このラノ占い2005で提案した「このラノ値」。

このラノ値 = 得点総計/票数総計

という式で定義される値です。では早速結果を見てみましょう。

順位このラノ作 家備 考
1 5.8000(80)新城カズマ サマー/タイム[58/10]
2 5.5714(77)山形石雄 司書爆[39/7]
3 5.1818(72)米澤穂信 古典部[57/11]
4 4.8750(67)ヤマグチノボル ゼロの使い魔[39/8]
5 4.7647(66)小川一水 復活の地[81/17]
6 4.5833(63)桜坂洋 AYNIK[162/35] 現代魔法[73/18] スラム[40/7]
7 4.5769(63)桜庭一樹 [219/38] GOSICK[94/29] 荒野の恋[44/11]
8 4.4545(62)谷瑞恵 伯爵と妖精[49/11]
9 4.4524(62)竹宮ゆゆこ [187/42]
10 4.3684(61)高瀬彼方 デバフロ[83/19]
11 4.3438(60)桑島由一 神様家族[84/20] 大沢さんに[55/12]
12 4.2857(59)須賀しのぶ 流血女神伝[60/14]
13 4.2800(59)渡瀬草一郎 [214/50]
14 4.2537(59)西尾維新 [285/67]
15 4.2308(59)岩田洋季 護くん[55/13]
16 4.2000(58)有川浩 海の底[84/20]
17 4.1282(57)橋本紡 [161/39]
18 4.0833(57)日日日 狂乱家族日記[49/12]
18 4.0833(57)菅沼理恵 星宿姫伝[49/12]
20 4.0667(56)雪乃紗衣 彩雲国♠[61/15]
21 3.9811(55)川上稔 [211/53]
22 3.9512(55)浅井ラボ [162/41]
23 3.9286(55)田口仙年堂 吉永さん家[55/14]
24 3.9231(54)三枝零一 [102/26]
25 3.9091(54)田代裕彦 平井骸惚[43/11]
25 3.9091(54)林トモアキ おりがみ[43/11]
27 3.8286(53)片山憲太郎 [134/35]
28 3.8000(53)壁井ユカコ キーリ[76/20]
29 3.7647(52)おかゆまさき ドクロちゃん[64/17]
30 3.7576(52)喬林知 ()[124/33]
31 3.7500(52)新井輝 ROOM No.1301[45/12]
32 3.7273(52)清水文化 気象精霊記[41/11]
33 3.6667(51)岩井恭平 ムシウタ[88/24]
34 3.6364(51)水口敬文 憐 Ren[40/11]
35 3.5965(50)谷川流 [205/57]
36 3.5833(50)高野和 七姫物語[43/12]
37 3.5278(49)賀東招二 [127/36]
38 3.5270(49)成田良悟 !![133/33] バッカーノ![85/28] ヴぁんぷ![43/13]
39 3.4783(48)吉田直 トリブラ[80/23]
40 3.4286(48)葉山透 9S[96/28]
41 3.3889(47)海原零 銀盤[61/18]
42 3.2778(46)結城光流 少年陰陽師[59/18]
43 3.2500(45)あざの耕平 BBB[39/12]
44 3.2258(45)上遠野浩平 [100/31]
45 3.1842(44)高橋弥七郎 [121/38]
46 3.1739(44)時雨沢恵一 [235/72] リリトレ♠[57/20]
47 3.1481(44)甲田学人 Missing[85/27]
48 3.0588(43)鎌池和馬 とある魔術の♠[52/17]
49 3.0313(42)今野緒雪 [97/32]
50 3.0000(42)十文字青 薔薇のマリア[42/14]
51 2.8077(39)ハセガワケイスケ しにがみ[73/26]
52 2.6000(36)滝本竜彦 NHKに♠[52/20]
今回の集計では、持ち点40点5票の書評人が56人、持ち点15点5票の普通人が446人ですので、このラノ値の平均は3.56(高野和[3.5833]と賀東招二[3.5278]の間)。これを中心に、このラノ値が前後の作家で大きく変化するところ(かっこ内の偏差値が連続していないところ)を参考にしつつ、このラノ値の間隔が等幅(0.5894)になるように5つにグループ分けしてみました。

今回の分布の大枠

平均の3.56より大きい作家は36人、小さい作家は16人と、非対称な分布になっているのは、ランキング上位60作に入らない作品・作家があるためでしょう。
次巻以降では、詳細なデータが公表されるか、もしくは、編集部で独自に集計してもらえるといいですね。

ここで昨年の復習

昨年のこのラノ値では、

でした。また、

  • このラノ値2005が高いと、書評人を中心とした人気で売行不明。
  • このラノ値2005が低いと、普通人に人気で売行好調。
  • このラノ値2005の平均付近は、両者に人気で売行も悪くない。

という推論を披露しました。今回はどうでしょうか。

最大・最小の布陣

このラノ値2006の上位3人は、新城カズマ[5.8000]、山形石雄[5.5714]、米澤穂信[5.1818]と、SF系、非角川系新人、ミステリ系の分野から各一人。書評人が投票しない限り達成できない値(普通人がいくら投票しても1票の最大得点は5点です。)を獲得しています。
一方、下位3人は、十文字青[3.0000]、ハセガワケイスケ[2.8077]、滝本竜彦[2.6000]。角川人気シリーズ、電撃安定株、メディアミックス文庫再刊行という布陣ですね。
このラノ値が極端に大きいところと、かなり小さいところでは、昨年と今年とで傾向にあまり違いはない模様です。

グループの特徴は?

では、各グループについて、♥(作家得票・得点上位5人)、作品得点上位10位作品得点11〜20位の数を見てみましょう。

第1グループ ( 5人) - - -
第2グループ (11人) ♥♥♥ ◎◎◎◎◎
第3グループ (20人) - ◎◎◎ ◎◎◎
第4グループ (14人) ♥♥ ◎◎◎◎◎◎
第5グループ ( 2人) - - -
これを見ると、分布が突出している第1グループと第5グループ、人気作が順に並ぶ第2グループ〜第4グループ、という印象を受けます。

このラノ値は変わったか?

昨年の分析では、得点による順位とこのラノ値による順位に大きな違いがあるのが衝撃的でした。そして、特定の層に強く指示されている作家は、このラノ値が高い傾向にありました。今回も、最上位グループについては同様のことが言えそうです。
一方、第2グループ以下について見ると、得点順位とこのラノ値順位の相関関係が強くなっているように思います。おそらく、書評人と普通人との持ち点が近付いて差が出にくくなったことや、折からのライトノベル(書評)ブームで普通人と書評人とで読み方の差が少なくなってきたことの相乗効果によるものと思います。
作品ランキング1位の西尾維新ファウスト組では、舞城王太郎佐藤友哉よりもライトノベルに近い立ち位置がはっきり見えた気がします。
西尾維新ファウストからライトノベルへの「流入」ですが、ライトノベルから外へ「流出」した桜坂洋桜庭一樹、他ジャンルからライトベルへ「流入」した桑島由一といった、ライトノベルと他のジャンルやレーベルとのボーダーを飛び越えている作家が第2グループに入っていることにも気付きます。
ボーダー越え作家に対する評価は、書評人のみの支持ではなく、普通人も支持しており、各人の投票内順位も高い――そんな傾向がありそうな気がします。

結び

今回の投票結果は前回に比べて、実に穏当な結論が得られました。ネットにおける情報伝搬の速度やライトノベル関連書籍の増加などの影響か、このラノのランキングに投票する人の傾向が、以前よりも揃ってきたような印象を受けます。
個人的には、ボーダー越え作家の今後の活躍に注目しています。