螢坂

著:北森鴻 画:金田実生 講談社文庫*1

ビアバー香菜里屋の今日の一品目は、湯通しした実山椒を細かく刻んですり生姜と微塵切りの分葱とめんつゆ、ごま油を一、二滴のソースで、賽の目切りトマトと素揚げした海老、烏賊を和えたもの――料理も謎解きも気になる短篇集。
マスターのお薦めにしたがって酒と肴を口にすれば、そこには至福の瞬間が、の本シリーズですが、自分が炊事でやるよりも調理に三手間ぐらい余計にかかっているような、でもきちんと味に対する想像が膨らんで、とにかく心が美味しい。
これぐらいの手間なら、一回だけじゃなくてその後も作りそう、と思ったのは、赤ワインと醤油のソースでトロを炙り焼きにして分葱と一緒にライスペーパーでくるんだ生春巻。閉店30分前の半額セールをうまく使わないと駄目ですが。
真澄がかつて淡い憧れを抱いた歳の近い叔父 修治の謎を解く「狐拳」の中の、病弱だった彼の、ちょっと東海林さだお*2玉村豊男*3風の言葉「この世には二種類の不幸がある。100グラム8000円の牛肉ばかりを食べ過ぎて、1本120円のモツ焼きの美味さを忘れてしまう不幸。1本120円のモツ焼きしか食べることができずに、100グラム8000円の牛肉の味を知らない不幸。どちらも同じくらい不幸なんだ。もっとも幸福な人間は、双方の美味さを知りつつ臨機応変に、そして貪欲に美味を追求する。」が気になりました。
これって、食べ物だけじゃなくて、読書とかゲージュツとかエンタメとか、色々なことに当て嵌まるような気がします。読書で味覚の幸福を感じたい方にお薦め。

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