このラノ2007分析(3) マニア層が好きなラノベはこれだ! 一般層が好きなラノベはこれだ!

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このライトノベルがすごい! 2007*1での投票は、編集部が依頼した協力者(書評人)とウェブアンケート(普通人)とで、得点の重みを変えた傾斜ポイント制をとっているところが特徴です。この傾斜に対しては、昔から色々と議論があるんですが、このラノ値のように逆利用すれば、作家や作品の傾向を知ることもできるんです。
残念ながら2007年版では、このラノ値で分析した結果*2はある意味で尖っていませんでした。そこで他の分析手法はないか、と色々試みてみたんですが、一つ、良さそうなものを発見しました。それが「独立成分分析」です。

独立成分分析とは

独立成分分析は、脳波の分析や音波・画像の分離などに利用できる手法です。理論的背景をすっとばして大雑把にいうと、「ステレオ録音されたピアノの弾き語りを、『ボーカルの声』だけの音声と『ピアノの音』だけの音声の2つに分離する」ことができる、という感じ。
一方、このラノの投票には、マニア度が高いと推定される書評人と、マニア度が低いと推定される普通人で持ち点の異なるポイント制の結果と、持ち点が等しい票数制の結果があります。
そこで、独立成分分析器に、「右音声」として「各作品のポイント数列(62次元ベクトル)」を入れ、「左音声」として「各作品の投票数列(62次元ベクトル)」を入れてみれば、出力の「ボーカル声」として「一般層の好みの度合(62次元ベクトルA)」が得られ、「ピアノ音」として「マニア層の好みの度合(62次元ベクトルB)」が得られるんじゃないかな、と予想したわけです。
そこで、早速計算してみました。計算には、LAPACKFFT3IT++を利用しています。

マニア層はこれが好き! 一般層はあれが好き!

分析の結果、2つの62次元ベクトルAとBが得られたんですが、独立成分分析の結果には定数倍の自由度があるため、(-A)と(B)にして、数値順にソートしてみました。
この色は、このラノ作品ランキング上位10作品、この色は、このラノ作品ランキング上位11位〜20位作品、♠は、くまざわ書店グループとコミックとらのあなで売上げ上位に入った作品です。また、(-A)と(B)について、それぞれ上位12位までの結果を示しています。

 作品(B)
15.37
22.88
32.82
42.67
52.65
62.37
72.30
8B.B.B.1.95
9!1.93
10流血女神伝1.45
11トリックスターズ1.17
12抗いし者たちの系譜1.15
 作品(-A)
15.04
24.35
33.42
42.92
52.75
62.57
7!2.54
82.09
9!!2.08
10しにがみのバラッド。2.05
11使2.04
121.66

このラノ2007をお持ちの方は、33頁に掲載の「協力者」「HP」と「モニター」の結果と是非見比べてみてください。
また、♠の分布を見てみるのも良いかもしれません。(-A)は♠×9、Bは♠×4なんですが、Bの♠は、すべて(-A)にも登場しています。
アニメ化やマンガ化されている作品の数を比較するのも良いでしょう。(-A)にはハルヒ・キノ・シャナ・半月・ゼロと、鉄壁の布陣を感じさせますが、Bはといえば半月にBBBと、どこかマニアックな印象。
どう見ても この分析結果は、こんな風にしか思えません! 

(-A) … 一般層によるランキング
(B) … マニア層によるランキング
傾斜ポイント制に感謝しきり。
もちろん、この分析手法が数学的・工学的な前提を満たしているか、とか、検定をしなくていいのか、とか、誤差はどの程度か、とかの厄介な問題は残りますが、直観的な分類にあまりにも一致していて怖いぐらい。
さて、この結論は、「協力者」のマニア成分と一般成分、「HP投票者」のマニア成分と一般成分、「モニター」のマニア成分と一般成分を抽出して、成分の種類ごとに合算した結果に相当します。
ですから、ある意味で、「協力者のみによる投票結果」よりも精緻なマニア層の好みがわかり、「モニターのみによる投票結果」よりも詳細な一般層の好みが得られているんじゃないかな、なんて気すらします。

支持層が異なるのはこの作品だ!

(-A)(B)作品
3(-56)59
10(-50)60しにがみのバラッド。
2(-48)50
6(-45)51
18(-44)62いぬかみっ!
19(-42)61学園キノ
13(-41)54GOSICK
21(-37)589S
17(-36)53少年陰陽師
24(-33)57リリトレ
16(-31)47ブギーポップ
9(-29)38!!

マニア層による(推定)ランキングと一般層による(推定)ランキングが得られた今、支持層が異なる作品群を抽出することもできるようになりました。
(-A)と(B)の数値は互いに比較することはできないので、(-A)内での順位と(B)内での順位の違いに注目してみます。
たとえば、文学少女は(-A)では12位、(B)では4位ですから、8位だけアップ、ということになり、支持者はどちらかといえばマニア層の方が多いんじゃないかな、なんて予想できます。
次は、順位の差に注目して調べた結果を見てみましょう。

一般層中心に支持されている作品

(-A)の順位が(B)の順位よりも圧倒的に高いのは、灼眼のシャナ(高橋弥七郎)・しにがみのバラッド。(ハセガワケイスケ)・キノの旅(時雨沢恵一)、とある魔術の禁書目録(鎌池和馬)・いぬかみっ!(有沢まみず)と、電撃の人気作品が、のきなみ入っています。
個人的には、アニメ化された少年陰陽師(結城光流)が入っているのに、納得もしつつ、驚きもしつつ、という感じ。女性もしっかり投票していることが確認できます。
時雨沢恵一は、三作品(キノ・学園キノ・リリトレ)がすべてこの中に入っているのも何だか凄い。
また、この色よりもこの色が多い、とか、♠×5と売行き好調作も比較的多い、というのも特徴かもしれません。

(-A)(B)作品
61(51)10流血女神伝
62(50)12抗いし者たちの系譜
56(45)11トリックスターズ
60(44)16SHI-NO
58(40)18煌夜祭
59(37)22伯爵と妖精
39(36)3
49(34)15上等。
35(30)5
47(30)17お・り・が・み
30(29)1
57(27)30コッペとBB団

マニア層中心に支持されている作品

(B)の順位が(-A)の順位よりも圧倒的に高いのは、流血女神伝(須賀しのぶ)・抗いし者たちの系譜(三浦良)・トリックスターズ(久住四季)・SHI-NO(上月雨音)・煌夜祭(多崎礼)。
なるほど、としか言いようがありません。
協力者ランキングBEST3のある日、爆弾が落ちてきて(古橋秀之)・狼と香辛料(支倉凍砂)・空ノ鐘の響く惑星で(渡瀬草一郎)が全部入っているのも驚き。
この三作はこの色なんですが、マニアの圧倒的支持によって、このラノランキング上位に入ったと推定できます。
この他、ネット内で感想を良く見る作品が多いような気もします。
一般層中心支持作は ほとんどが電撃文庫でした。一方、マニア層中心支持作は、コバルト、富士見F、電撃、富士見M、新書、MF文庫J、スニーカー、ファミ通と、レーベルがかなりバラけているのも目立ちます。

最後に

正直なところ、なんとなく想像していたマニア層ランキング、一般層ランキングと、ここまで一致したのは驚きでした。
最後に。
文学少女シリーズ(野村美月)が、一般層・マニア層の両方で上位に食い込んだのは、読書する人なら好きになる作品だからなのか、それとも単なる誤差なのか――今後の展開に注目です。

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