幻詩狩り

人の心を蝕みやがては《死》に至らしめる言葉の《麻薬》を取り締まる坂本は、押収した詩に心を奪われ、隠し持って――人を魔界に誘う第5回日本SF大賞受賞作。
冒頭の描写からは、空想を焚書にする華氏451度(ブラッドベリ) *2、芸術を焚書にするリベリオン*3のような、マニア抑圧社会ものかな、と思ってたんですが、もっと具体的な《ブツ》が取締りの対象になってます。
この《麻薬》ですが、図形に対する視覚を用いて人の心を入り込み改造する「ディレルの書」が登場する食前絶後!!(ろくごまるに) *4で、人々が次第に汚染されていく様子は、本書と似ています。本作の《幻詩》は、日本語に飜訳しても言葉の魔力が有効なぐらいで、言葉(記号)に対する知覚を用いた魔導、という感じ。
芸術家に自殺が多い理由を力技で捻じ伏せる剛腕が凄い。焚詩の近未来やシュールレアリズムの時代のほかには、火星での闘いを描く西暦2131年、西都デパートの会長 辻見祐三が登場するセゾン文化の時代が登場しますが、火星時代の方がセゾン時代よりも古めかしいところに、未来予測の面白さや難しさを感じます。
アンドレ・ブルトンの名を聞くと、ウルトラマン四次元怪獣を思い出すあなたにお薦め。

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