不確定世界の探偵物語

著:鏡明 画:L.O.S.164 創元SF文庫*1

70年以上の過去なら干渉できるタイムマシンを独占する富豪に雇われた俺は、常に歴史が変わり続けるこの世界で、謎を解く探偵なんて一体何の役に立つのか――空前絶後時間SF
創元文庫探偵物語ということで、ミステリーのつもりで手にとったんですが、中身は連作SFサスペンス短篇でした。貧乏ヒマなしの古典的ハードボイルド探偵は、推理によって謎を解くのではなく、時間の経過と変化が結果を持ってくるサスペンスタッチ。主人公ノーマンが日系だったこともあって、松田優作探偵物語*2を心に浮かべながら読み進めました。
殺人技術を身につけたヒロイン ジェニファーは、狼の紋章シリーズ(平井和正) *3の虎四こと林芳蘭的な強さの持ち主ですが、恋い焦がれる方向が逆向きなところが非モテ男の哀しさ。
過去の書き換えで死んだはずの人が生き返ったり、しかもそのことを本人が知らなかったり、書き換えられる前の過去の記憶は次第に薄れていったり、と、レジンキャストミルク(藤原祐) *4における世界の修復的な光景が見られますが、本作の富豪エドワードと、レジン〜の晶とでは、腹の座り方が違います。《すべての元凶》には、やはりそれだけの貫禄が必要なのかも。

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