小憎の神様
ひとつでじゅうぶんですよ わかってくださいよ
学校の教科書に全文が載るくらいに短くて有名な本作。あんまりな結末に、中学生の頃はどこが面白いのかよくわからず、ただただ旨そうな鮪の脂だけが心に残ったこの小説。
雑誌「dancyu」2009年2月号*2の「私的読食録」(角田光代)で、こんな風に言及されていました。
立ち食いの寿司屋から出る人が、指についた醤油を暖簾の隅でついと拭くから、そこだけ薄茶色く汚れているのだと、そんな記述があったように思ったのだが、そんなことは一言も書かれていなかった。暖簾の描写もなかった。
この記述、私にも記憶があるのです。国語の授業で先生が「暖簾を汚す」という行為の重大さを教えてくれた記憶もあります。そんなわけで、十数年(数十年?)ぶりに再読。
雑誌で紹介されていた岩波文庫版*3ではなく、新潮文庫版で読み直したのですが、確かに、暖簾で指を拭く記述はありませんでした。
そんな細部を書かずに見せてしまう、くっきりと記憶させてしまう。やっぱりすごい小説なのである。
他にも同じ記憶を持っている人がいる*4 *5ので、おそらく改訂で削除されたのだろうと推測しますが……真相はどうあれ、飢えた子供心に寿司の美味しさを植え付けたこの小説は、それだけでやっぱりすごい小説だと思いました。
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