夜想

妻子を交通事故で亡くした雪籐は、家族の写真に触れて彼の悲しみを知った遙の涙に救われ、彼女の特殊能力を広めるべくボランティア活動を始めるのだが――廻りから見ればこれも一つの新興宗教モノ。
超能力者を巡る町のボランティア組織もの 岬一郎の抵抗(半村良) *2 *3 *4では国家権力が敵になりますが、サークルにせよ会社にせよ、たとえメンバーが善意の人であっても、拡大するにつれて内部の問題が露呈して崩壊の道へ、というのは良くあること。悪いのは国、とか、悪いのは誰某、というのではなく、誰もそんなに悪くないのに、むしろ良い人ばかりなのに、何故かいけない方向へ向かってしまう。本作は、まさにそういう悪者が決まらない状況を描いています。
妻子を亡くした雪籐をメイン、娘が出奔した子安をサブにした螺旋状の構造の本作、一歩離れた視点で読むと、他人に依存し、他人に救ってもらう姿勢が共通していることがくっきり。一つ気付くかどうかで、これだけ違う最後がやってくる。
雪籐の行動に感情移入しちゃうのはちょっと危険な雰囲気。「志村志村、そこそこ!」モードで読むのが良いかも。お薦め。

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