ナイト・オブ・ザ・ホーリーシット
さいたま近郊にあるホテルの一室に、生徒 霧崎文緒からのメールで呼び出された代替教員のぼくは、彼女が書いたケータイ小説が気になり、遠距離恋愛中の恋人にメールを送るが――残された者たちの物語、シリーズ第3弾。
タクミが消えて残された文緒を描く「さいたまチェーンソー少女」*2、文緒が消えて残された薫子を描く「遊星からのカチョーフーゲツ」*3に続く本作のモチーフは、子供時代に幼馴染みが消えて残された《ぼく》の、ホテルの一室の一夜の幻想。
対戦アクションものとしての見せ場が光る前2作に対して、本作の見処の一つは、回想と逃走と幻想が、「ホテルの一室」という魔法の呪文で輻輳される描写。この文体を見ていると、筒井康隆の反復小説『ダンシング・ヴァニティ』*4をちょっと思い出します。
『ダンシング〜』が、『All You Need Is Kill』(桜坂洋) *5に触発されてリセット小説を書いてみせた(大森望「ダ・ヴィンチ」2008年4月号*6 )作品であるならば、反復を織り交ぜつつ、虚構世界を現実世界に自然かつ華麗に着地させた本作は、桜坂から筒井への再返答といえるかもしれません。
作家同士による小説での応酬も嬉しい本作、『All〜』『ダンシング〜』とあわせて、絶対のお薦め!
→ 感想リンク集
Wヒロの来し方行く末
ヒロキとヒロシの共作『キャラクターズ』(東浩紀+桜坂洋) *8が単行本化されて1箇月、これで著者二人の新作が出揃いました。
評論でもメタ小説でもなく、ちょっと私小説的っぽいSF連載を文芸誌「新潮」2008年5月号*9から始めた東浩紀。その作品「ファントム、クォンタム」は、「プロットと台詞だけで文体がない小説」(宇野常寛「文學界」2008年6月号*10 )と評されています。
*1:ASIN:B001B7MJ6O ac amazon mono
*3:ASIN:B0009MW8AO ac amazon mono
*4:ISBN:9784103145295 bk1 junku rak ac amazon mono lnm rcl
*5:ISBN:4086302195 bk1 junku rak ac amazon mono lnm rcl
*6:ASIN:B0014RHGAU ac amazon mono
*7:ASIN:B001B7MKGI ac amazon mono
*8:ISBN:9784104262021 bk1 junku rak ac amazon mono lnm rcl