ナイト・オブ・ザ・ホーリーシット

生ける屍の夜、聖なるクソの夜
S-Fマガジン 2008年 08月号 [雑誌]

さいたま近郊にあるホテルの一室に、生徒 霧崎文緒からのメールで呼び出された代替教員のぼくは、彼女が書いたケータイ小説が気になり、遠距離恋愛中の恋人にメールを送るが――残された者たちの物語、シリーズ第3弾。
タクミが消えて残された文緒を描く「さいたまチェーンソー少女」*2、文緒が消えて残された薫子を描く「遊星からのカチョーフーゲツ」*3に続く本作のモチーフは、子供時代に幼馴染みが消えて残された《ぼく》の、ホテルの一室の一夜の幻想。
対戦アクションものとしての見せ場が光る前2作に対して、本作の見処の一つは、回想と逃走と幻想が、「ホテルの一室」という魔法の呪文で輻輳される描写。この文体を見ていると、筒井康隆の反復小説『ダンシング・ヴァニティ』*4をちょっと思い出します。
『ダンシング〜』が、『All You Need Is Kill』(桜坂洋) *5に触発されてリセット小説を書いてみせた(大森望ダ・ヴィンチ」2008年4月号*6 )作品であるならば、反復を織り交ぜつつ、虚構世界を現実世界に自然かつ華麗に着地させた本作は、桜坂から筒井への再返答といえるかもしれません。
作家同士による小説での応酬も嬉しい本作、『All〜』『ダンシング〜』とあわせて、絶対のお薦め!
感想リンク集

追記
6月27日発売「電撃大王」2008年8月号*7掲載の「さいたま〜」コミカライズ情報、冒頭ページが掲載されていました。こちらも楽しみです。

Wヒロの来し方行く末

新潮 2008年 05月号 [雑誌]キャラクターズ

ヒロキとヒロシの共作『キャラクターズ』(東浩紀+桜坂洋) *8が単行本化されて1箇月、これで著者二人の新作が出揃いました。
評論でもメタ小説でもなく、ちょっと私小説的っぽいSF連載を文芸誌「新潮」2008年5月号*9から始めた東浩紀。その作品「ファントム、クォンタム」は、「プロットと台詞だけで文体がない小説」(宇野常寛文學界」2008年6月号*10 )と評されています。
となると、『高い城の男』(ディック) *11的なif世界の設定で展開されるプロットがキモ、ということになりそうで、文体に酔う悦楽よりも、学者である《僕》と平行未来if世界の《僕の娘》のストーリー展開の方が気になります。素人なりに思い付く今後は、

あたりでしょうか。桜坂洋が「ナイト・オブ〜」でif世界と現実の綺麗な接続に成功しているだけに、本人曰く小説力アップ中の東浩紀には、是非とも上の予想を覆すプロットに期待したいところ。

そんな二人の『キャラクターズ』については、様々な方からご指摘・ご連絡をいただいています。ありがとうございます。集まった書評を読んで色々考えが出てきたので、『キャラクターズ』著者としての桜坂洋の重要な役割について、近日中にまとめる予定です。

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