縮んだ愛

酒が理由で失敗したことがないと自慢するアル中
著:佐川光晴 デ:芹澤泰偉 講談社文庫*1

自閉症児サトシを殴って転校した牧野と再会し、毎週酒を飲むことになった障害児学級教師の岡田だが、ある日牧野は暴漢に襲われ――真相が一意に定まらない第24回野間文芸新人賞受賞作。
岡田の述懐で綴られる本作、障害児教室の先生とはいえど、《聖職者》ではなく、単にその職業を選んだだけのありきたりの人であることがひしひしと伝わってきます。仕事として障害児に向き合うこと、全生活を障害児に捧げること、この2つの狭間で、岡田が壊れていくのはもちろん、特定職業人に対して読者が抱いていた過剰な期待も破壊されていきます。
岡田が飲む酒の量も頻度も、こんな状況で飲むか、という心掛けも半端じゃない。アルコール依存症患者は、自分ではそうじゃないと主張する、とよく聞きますが、岡田の語りはまさにそれ。
本作、牧野を襲った真犯人についてのミステリー性も話題になったとのこと。もっとも、『夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩) *2 *3とは異なり、本作を読んだだけでは真実に到達することはできなさそう。謎が謎として残ってこそ、という意味では、ミステリーというよりは、ホラーに近い、そんな印象を受けました。

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