福音の少年
藍子とつきあっていた永見は、「私のことを、あなたにだけは忘れてほしくない」という言葉を残しアパート火事で死んだ彼女の謎を、彼女の幼馴染み柏木とともに探り始める。ひねたジャーナリスト秋庭と出会った彼らは――
自由間接話法という手法があります。レギ伯爵の末娘(野梨原花南)*2の感想やよくわかる現代魔法ゴーストスクリプト・フォー・ウィザーズ(桜坂洋)*3の感想でも少し触れていますが、三人称の地の文に、いきなり登場人物の心情を直接書いてしまうやり方です。要するに「〜である。彼は(美味いぞ)と思った。それから〜」と書かずに、「〜である。美味いぞ。それから〜」と書くことになります。
それまで客観的に世界を見ていたのに、登場人物の心情に突然ぐっと引き寄せられるこの手法、本作でも効果的に使われています。この手法、セリフとセリフで話をつないでいく文章に三人称表現が歩み寄った形式なのかもしれません。
バッテリー(あさのあつこ)*4のような単純な少年達のカラっとした葛藤もいいですが、頭が良いが故に心の中の闇を自覚している少年達の葛藤も良いですね。
