心ヲナクセ体ヲ残セ

文章による野鳥の萌えキャラ化
著:加藤幸子 画:谷口広樹 角川文庫*1

あの気違い陽気が、臆病で消極的なボクを、〈闇の殺し屋〉も怖れぬ芸術肌の自信家の“おれ”に変身させる――男の性を描く「アズマヤの情事」を含む、野鳥愛好家の短篇集。
動物を人間の視点から描いた『ソロモンの指輪』(ローレンツ) *2や『大造じいさんとガン』(椋鳩十) *3を、少し擬人化して親しみやすくしたのが『ぎざ耳ウサギの冒険』(シートン) *4や『白いりす』(安藤美紀夫) *5だとすれば、本書は、さらに進めて鳥の心と体を、人の心と体の言葉に、丁寧に忠実に飜訳した感じ。
鳥の性愛を、「アズマヤ~」では男の視点から、「火の恋」では女の視点から、それぞれ描いているのですが、人の恋愛模様と妙に符合するのが面白い。特に「アズマヤ~」は、突然色気付いた男の子の《欲望》の、外から見た様子に重なります。
遺伝子を擬鳥化して鳥である《私》と語らせる「ジーンとともに」の遺伝子《ジーン》と《私》の関係は、基本的には見守るだけ、なところが、『中国の壺』(川原泉) *6の趙飛龍と志姫に似ています。
必ず冷めるとわかっている恋を味わってみたい方にお薦め。

><