無貌伝〜双児の子ら〜

変装し過ぎで本当の顔を忘れた怪人二十面相

人ならざるもの《ヒトデナシ》が跋扈する日本、怪盗 無貌に顔を奪われ失意の日々を送る探偵 秋津を訪れた少年 望は、鉄道王の娘 芹を狙う無貌の犯行予告に――猫のヒトデナシ、犬のヒトデナシ、そして、人のヒトデナシの怪異、第40回メフィスト賞受賞作。
鉄道王一家に何組も登場する双子、ということで、当然その顔はそっくり。その上、人の顔を奪う能力がある無貌まで出てきて、事件が起きたときの目撃証言がどこまで役に立つのか、まったく想像がつかない展開。『犬神家の一族』(横溝正史) *2佐清の仮面があまりにもたくさん、な感じ。ゴム仮面ではなく包袋仮面ですが。
デビルマン』(永井豪) *3 *4に登場するジンメンは、人を食ってはその顔を体表に浮き上がらせ、嘆き悲しむ姿を喜ぶデーモンですが、本作の無貌は、『怪人二十面相』(江戸川乱歩) *5が自分の変装用の仮面と対話して楽しむような、少し歪んだ美的センスの持ち主。無貌が次に集めようとするのは、美少女 芹の《舌》、ということで、なんとも耽美的です。
少年 望に過去の自分を見つつも一歩踏み出せない探偵 秋津の腐り具合もたまりません。
今巻では、無貌に顔を奪われた者とその関係者に生じる現象が謎解きの肝の一つになっていますが、この設定は他のトリックにも使えそう。秋発売の次巻に期待のお薦め。

><