少年少女飛行倶楽部

ベランダに宙釣りになったお月様の話
著:加納朋子 画:丹地陽子 文藝春秋*1

幼馴染 樹絵里に誘われて飛行クラブに入部した海月は、変人部長 神に怒りの感情の高まりを覚えつつも、持ち前の貧乏性からいつの間にか世話役を担うようになり――何かを飛ばすのではなく、自分自身が空を飛ぶための青春小説。
情報通で性格が悪い「イライザ」こと良子、トロくて甘ったれな樹絵里、苦労性でついつい面倒を見てあげちゃう海月、三人の感情のもつれ合いを見ていると、女社会の社交の発展度合は中学1年でも超高度。
それに比べて、部長の神や、野球から離れた中村・球児の男性陣の単純明解爽快なこと。自分が中一だった頃を思い返すと、もっとドロドロした感情も抱いていたように記憶していますが、そういうところは女の子視点だと見えないのかも。
もう一人の部員 朋は、その名前の読み方のインパクトがすごい。最終話「テイク・オフ」のクライマックスをこの名前で読むと、『一千一秒物語』(稲垣足穂) *2の中の一話みたい。
男の子が主人公だと、人が乗れる飛行機を作る『わんぱく天国』(さとうさとる) *3や『雲のむこう、約束の場所』(新海誠) *4の方向についつい進んでしまいそうなところですが、本作の場合、女の子が語り手なこともあってか、「何らかの手段で飛べればそれでいい」という割り切りがあるところが妙に新鮮。
アルバイトもできない中学生が、どうお金を稼いでどう空を飛ぶのか、確かにこれなら実現しそうな、リアルな飛行譚。お薦め。

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