ICO ―霧の城―

yomimaru2004-08-08

ゲームICOのキャッチコピーは「この人の手を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから。」ですが、こちらの小説の帯は「ぼくが君を守る。だから手を離さないで」です。この差が如実に出ているノベライズです。
ICOは、自分が主人公イコとなり、少女ヨルダと手をつなぎながら城から脱出するというだけのゲームです。手を離している時間が長ければ、ヨルダは黒い影に呑み込まれてゲームオーバー。手をつないで一緒に歩き、走り、時には手をさしのべてこちらに来るように促す。手を握る。生まれて初めて憧れの異性と手をつないだときの官能をコントローラごしに感じることができる。これがICOの魅力だと思うのです。
一方ノベライズでは、ヨルダの戸惑い、怯え、ためらい、そして決意に焦点を当てています。手を繋ぐという肉体的な感覚よりも、言葉が通じないが故に目で語り合う精神的な感応に、重きが置かれているように感じます。イコが「手を離さない」のではなく、ヨルダに「手を離さないで」と願う姿勢。この差異が、ゲームファンにはあまり好評でない原因なのでしょう。
ゲームパロディ同人の小説と思って、コミケで買ったつもりになって、割り切って読む。この小説は、ICO世界のパロディ分枝の一つに過ぎない。そう思えば、難なくこの世界に入っていけるんじゃないでしょうか。
ゲームでは明かされなかったこの世界の秘密が宮部みゆき独自の世界として詳細に語られています。こういう解釈もありか。ヨルダは実はこんなことを考えているのかも、と思ってもう一度プレイしたら、あの艶めかしい立ち姿も違った印象になるかも。もう一度やろうかな。ゲームをやり直したくなるノベライズは貴重なり。