時計を忘れて森へ行こう

yomimaru2006-07-01

bk1
著:光原百合 画:おおた慶文 創元推理文庫*1

心を痛めて森林実習に参加する人々の傷を癒す自然解説指導員の護さんの洞察力に驚かされる私 翠のボランティアの日々――どこまでもピュアな物語。
探偵役にはどこかアンバランスなところや変人めいたところがつきものなんですが、本作の護さんは完璧超人。空飛ぶ馬(北村薫) *2の円紫師匠は《父》的な《完璧》を感じるんですが、本作は《兄》的な完璧の印象。
自分が好いていることに無自覚な翠は、自分が好かれていることに激ニブな殺×愛(風見周) *3とは好意の方向性が逆なんですが、どことなく「読者に対する嘘」の感じが漂うところは共通。もっとも翠の場合、周囲は「恋」だと見ているのに、本人は「兄」だと見ているようなので、これでいいのか。いやそれは嘘だ。
傷を癒やすというよりは、いつまでも直らないかさぶたを剥いてから湿潤療法を施すような印象の、憑き物落とし系の謎解き三本。護さんの欠点は、良い人の外面の下に、一旦傷を刔っちゃうようなサディスティックな嗜好を隠しているところにあるのかもしれません。

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