ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺

著:田中啓文 画:たなかしえ 集英社文庫*1

大酒呑みの師匠 梅寿の下に無理矢理弟子入りさせられた竜二は、師匠の無体に古典落語への無知から、逃げ出すことばかり考える毎日だが――芸人の楽屋裏ミステリー短篇集。
竜二の才能を発見した周囲の面々が、その事を竜二に伝えようとしないところが、人を褒めろの哲学*2と真反対で面白い。悪いところとか足りないところが指摘されて反発して、その意図が後で本人に理解される、という劇的な展開を見せるためには、いきなり褒めちゃいけない、ということですね。小説で褒めるところからスタートすると、大体図に乗って失敗するオチになることだし。
各篇はいずれも古典落語を劇中劇にした人情噺。しゃべれどもしゃべれども(佐藤多佳子) *3ではちょっとひねった方向で笑いをとることで垢抜けた感じを出していますが、本作では比較的オーソドックスな笑いをオチに持ってきています。
成功感動譚なはずなのに嫌味じゃないのは、こういう懐しさにほっとする野暮ったさがあるためかも。お薦め。

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