黒祠の島

著:小野不由美 画:中川惠司 新潮文庫*1

作家 葛木志保の資料収拾調査を務める式部剛は、失踪した彼女の手がかりを求めて夜叉島に渡るのだが、街中に掲げられた多数の風車の異様な雰囲気に呑まれ――闇を統べる邪教ミステリ。
国家神道に統合されなかった神社を「黒祠」と呼ぶとのことで、別段それだけで「邪教」とするわけにはいかない、との設定と、インスマウスの影(ラブクラフト) *2のような来訪者を拒絶する雰囲気が夜叉島島民には一見ないことと、がうまく合致していて、島民本人たちも気付いていない《信仰》が、より一層重く感じられます。
島民が日本の文明文化を排斥しているわけじゃないし、一旦気を許すと来訪者でもそれなりに受け入れるところが現代的なだけに、根底に流れる《信仰》とのギャップが怖い。
キャラ設定的には、神を祀る守護(巫女)浅緋が絶妙のツボをついてました。
たとえば、凶悪事件で犯人の動機が形式的に整うと何だか安心する人間心理。そういう、誰にでもある《合理化》の罠を鋭くえぐる怪作です。お薦め。

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