生贄を抱く夜 神麻嗣子の超能力事件簿

入念かつ綿密なリサーチの末、金曜日の夜に〈リストランテ・ヴィチーノ〉に向かった香保里が仕掛ける乾坤一擲の“復讐”計画とは――鮮魚のカルパッチョに赤ワインの《絶妙》な組み合わせ「情熱と無駄のあいだ」を含む全7篇の超能力推理短篇集。
性欲の円環構造を描く「もつれて消える」では、誰かとセックスする夢を見ると後日それが実現してしまうあたしの、未来が解ってしまうが故の気怠さが光ります。たとえば『銀の三角』(萩尾望都) *2好きにはたまらない一篇。
欲としての食が前面に出てこない『ベーコン』(井上荒野) *3に比べると、「情熱と〜」の香保里の食に対する態度は、まさに貪欲。“復讐”の目的と手段が転換しちゃっているところなど、王道的な美食倒錯系作品。『デザートはあなた』(森瑤子) *4が自作系とするならば、本作は外食系で、美味しいコミカルさが嬉しい一篇です。
ルール理解に時間がかかるせいか、排除法で解ける単純な謎でも、勢いで話の結末に連れて行かれてしまう超能力ミステリは、長篇よりも短篇が向いているのかもしれません。お薦め。

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