誰のための綾織

飛鳥部さんの生徒が書いたというミステリー『蛭女』の暫定稿を読んだ僕は、この作品がフェアか否か、実名のまま公開して良いものか悩み――あの女を愛し憎んだ女子高生の環形吸血ミステリー。
自殺した瞳の友人であったが故に孤島に拉致され、“蛭女”の復讐を受けるモネ、由香里、智子ら。彼女たちの端正で歪んだ姿を読んで、『少女小説家は死なない!』(氷室冴子) *2に登場する28歳男の寄宿舎清純百合モノ作家が頭に浮かんできました。表紙もそれ系だし。
同じ同性愛系でも、『シロツメクサアカツメクサ』(森奈津子) *3とかとは、生々しさの方向性がちょっと違う感じ。腐敗か発酵か、のような差じゃなくて、素材をそのまま発酵させた納豆か、一旦加工してからさらに発酵させた豆腐餻(とうふよう)か、の差みたいな。
ミステリー談議で始まる本作、「原稿用紙千枚で説明される『死体が見えるはずなのに見損なっていた第一発見者』の話」の条には爆笑。すでに古典になりつつある作品を下敷きにしつつの捻りの数々には唖然呆然。飛鳥部と僕の最後の台詞には、木の杭で胸を突かれたような爽快感(?)があります。
小学校の卒業文集にアンジー/『はみだしっ子』(三原順) *4 *5のイラストを描いていた女の子を思い出し、彼女の言動や雰囲気を重ねることで、『蛭女』に綴られるモネの心情がすっと心に入ってくる感じがしました。
タイトルが何とも凄い『堕天使拷問刑』*6も読んでみよう。

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