倒立する塔の殺人

著:皆川博子 画:佳嶋 理論社ミステリーYA!*1

銃後で働く2つの女子校の生徒の間で廻し書きされる小説『倒立する塔の殺人』には、空襲で焼失したチャペルの中で亡くなった葎子の死、彼女の親友杏子の疎開の真相が――戦時下のミッションスクール、S《エス》の幻想ミステリー。
話全体のナレーターである欣子の物事に大らかな様子は、ミッションスクールに紛れ込んだ異分子という点も含め、『マリア様がみてる』(今野緒雪) *2祐巳に似ています。
一方、作中作の登場人物でもある葎子、杏子、小枝の三人は、戦時下の学生女工という泥臭い設定にもかかわらず、儚いというか幻想的というか。本人達は「エスなんて興味ない」と言ってはいるものの、程度の差こそあれ、やっぱりその傾向が感じ取れます。作中作中作の登場人物ミナモとナナも同趣向。物理トリックが人を狂わせるあたりに、何とも古典的少女小説の耽美さが。
本名は「律子」なのにわざわざ草冠をつけて「葎子」で署名する、とか、言及される詩や小説、芸術に漂う退廃の匂い、とか、そういう小技も光ります。複数の少女の人間関係を読み解く『リリカル・ミステリー』シリーズ(友桐夏) *3や、蕗谷虹児の世界が好きな方にお薦め。

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