もう誘拐なんてしない

生姜焼きにモツ煮込、サッポロビールにアサヒ芸能で一人きめる彼女
著:東川篤哉 画:杉田比呂美 文藝春秋*1

夏休みの間 軽トラたこ焼き屋でバイトすることになった翔太郎は、チンピラ二人に追われる女子高生 絵里香を匿ったせいで、彼女を門司から下関まで連れていくことになり――彼はいかにして誘拐犯となりしかコメディミステリー。
さらった者がさらわれた者に唆される展開が笑いを呼ぶ『大誘拐』(天藤真) *2と同じ狂言誘拐モノ。本作では、誘拐を遂行する側だけではなく、金を巻き上げられる側にもコメディ的な見処があります。
絵里香を追う花園組は、『セーラー服と機関銃』(赤川次郎) *3の目高組にも似た情けなさ。その中で、一人仁侠の道に生きる姐御 皐月の情の深さとカリスマ性がいいですね。
絵里香にちょっと手を出そうとしては反撃に会う翔太郎の、懲りない性分も楽しい。『生徒会の一存』(葵せきな) *4の主人公 鍵は、口先で女の子達を口説きまくってはかわされるタイプですが、本作の翔太郎は、直截な行動を察知されてかわされるタイプ。逃げられてもめげない明るさに好印象。
口先とは裏腹に行動は恰好いい『生徒会〜』の鍵とは違って、翔太郎の行動は常に三枚目系。どこかしまらない彼の行動に、絵里香が果たしてほだされるのか、最後まで一気に読み進む、の一冊でした。

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