優しい悪魔

テレビのCMにJTのロゴが映ったら私の心はもう動けない
著:垣谷美雨 写:永田雅裕 実業之日本社*1

カルチャースクールの生徒から高級腕時計を貰っちゃうほどに売れない絵本作家の夫にかわり、一家の家計を支える佐和子の願いは、20年間失敗続きの禁煙で――悪魔は一体誰なのか禁煙小説。
糖尿病との闘いを描く『シュガーな俺』(平山瑞穂) *2もそうでしたが、本作も、悲劇と酔う主人公に対する冷たい視線が根底に流れていて、その醒めた塩梅が気持ちいい。
闘病モノは、対象に対する豆知識が楽しみの一つ。本作で得た新しい知見は、軽いタバコの横に空いている小さな穴。その穴から入る空気で煙が薄まるために、ニコチン・タールの測定値が下がるだけ、実際に吸うときには穴を塞ぐため、実際のニコチン量はもっと多い、とのこと。
モバイルパソコンの稼働時間や自動車のカタログ燃費と同じで、実地の値とはちょっと離れているみたい。
禁煙と喫煙を揺れ動く登場人物の感情の振れ幅を、タバコ推進の屁理屈と詭弁が楽しい『サンキュー・スモーキング*3の禁止派と推進派の突出具合と見比べるのも面白いかも。

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