さよなら渓谷

走りより盛りの方がうまい
著:吉田修一 新潮社*1

一人息子の死亡事件で逮捕された里美は、俊介との仲をほのめかし、事情を聞かれた俊介の妻 かなこは、意外な言葉を口にする。俊介がかつて犯した罪の消息を追う記者 渡辺は――二人が一緒に暮らす残酷な理由の物語。
殺人事件にレイプ事件と、二つの事件が綴られる本作では、『セカンドレイプ』(落合恵子) *2とはちょっと違った視点で、被害者の怯えが描写されています。昨年末の『かんなぎ』(武梨えり) *3処女厨騒動をリアルに移して、男も女も被害者を攻撃する、といった感じ。
少女漫画では四半世紀前に『生徒諸君!』(庄司陽子) *4が乗り越えた壁。「自分の息子がレイプをしたら」「自分の娘がレイプされたら」という問いに答える男性記者の解答は確かにありそう。自分の中にも壁があるかもしれない、と気付かされるかもしれない一冊です。

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