カラスの親指

釈迦の掌の上で遊んでいた孫悟空
著:道尾秀介 写:加藤アラタ 講談社*1

テツさんと組んで詐欺を業とするタケ。掏摸の現場に居合わせ、犯人の少女 まひろを助けたことがきっかけで、共同生活を始めることになるが――借金取りを蹴り倒せミステリー。
ヤミ金融に生活を翻弄されて家族を失った面々が一緒に暮らすようになる擬似家族モノの様相から始まる本作。同じく擬似家族モノ『家族計画』(山田一) *2や掏摸占い師の『神様がくれた指』(佐藤多佳子) *3との違いは、本作では、《家族たち》を躓かせた原因が一つに集約される点でしょうか。
かなりのところまで《サスペンス》っぽい展開で、果たしてこれは《ミステリー》なのか疑問に思いながら読み進めましたが、読み終わってみれば、きっちり謎と解が提示されてスッキリ。擬似家族モノとしての印象よりも、ミステリーとしての印象が強い結末です。
結末で騙した側の視点でストーリーを回想するときには、トラップを仕掛けて侵入者を嵌めるゲーム『影牢*4のリプレイのような爽快感があります。もっとも、人が死なないのが詐欺師モノのウリなので、『影牢』のような後ろ暗さはまったくなし。
章題名が鳥の英語名になっていて、結合子論理の面白テキスト『To Mock a Mockingbird』(R. M. Smullyan) *5 *6を思い出しました。

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