九つの、物語

冷蔵庫のバニラエッセンスの賞味期限は何年前?
著:橋本紡 画:中島梨絵 集英社*1

香月君と付き合い始めたゆきなの趣味は、料理上手なお兄ちゃんの本棚から選んだ小説を読むこと。今日のリクエストは、お兄ちゃんと一緒に作るトマトスパゲティ――九つの小説を巡る初級文学少女ストーリー。
全九章の本作、『縷紅新草』(泉鏡花) *2、『待つ』(太宰治) *3、『蒲団』(田山花袋) *4、『わかれ道』(樋口一葉) *5、『あぢさゐ』(永井荷風) *6など、著作権切れ(真近)の作品や、『ノラや』(内田百閒) *7、『山椒魚(改変前)』『山椒魚(改変後)』(井伏鱒二) *8 *9、『コネティカットのひょこひょこおじさん』(サリンジャー) *10といった、比較的入手容易な有名処の小説が引かれています。
この作品群、最近お兄ちゃんの本棚から選び始めただけはあって、かなりマニアックな本を選ぶ女子大生の『円紫さんとわたしシリーズ』(北村薫) *11や、古典も読むけどおとめちっく小説大好きな先輩の『文学少女シリーズ』(野村美月) *12と比べると、初々しさが感じられて面白い。
連載は「小説すばる」で発行は新潮社ですが、理論社ミステリーYA!とかの方がレーベル的には合っている感じ。
お兄ちゃんの料理はいわゆる「男の料理」ではなく、地に足がついていて、作者本人が普段から料理をしていることがうかがえます。同じモテ系料理男のレシピでも、『デザートはあなた』(森瑶子) *13ほど気取っていないのが良い。フォー麺のかわりに素麺を使っちゃえ、とか、『料理の四面体』(玉村豊男) *14的な工夫もあちらこちらに。
普通にご飯を作りたい方にお勧め。

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