銀閣建立

芸術家と職人の微妙な差、アルチザンの欺瞞
著:岩井三四二 デ:多田和博 講談社文庫*1

応仁の乱が終わっても復興未だし、東山に足利義政の隠居用山荘を建立するという計画に、公方御大工の一族、三郎右衛門は最上級の建物を目指すが――土一揆おさまらぬ室町末期のクリエイター物語。
数百年は保つ美しい建物で自分の名を歴史に刻もうとする三郎右衛門の姿は、理想を目指す技術者者という点で、『プロジェクトX 挑戦者たち』*2と同趣向。
大きく違うのは、プロジェクトそのものに対する疑問を技術者が持っているか『プロジェクトX〜』の多くは、プロジェクトを進めることが前提の猪突猛進展開ですが、本作の場合、義政の美的センスに納得しつつも、民草を顧みない節操のない金のかけ方に対する疑問が三郎右衛門の頭の中をぐるぐる巡り、各種の被害を受けることにもなってしまう逆説的な展開。
ちょうど、個人的にはニコマス動画に熱中していながら仕事的にはニコ動の存在を公認できないバンナム社員、とか、無料コンテンツが広がることを歓迎しつつもクリエイターとして食っていきたい自分、とか、そんな二律背反の姿が興味深い。
銀閣が建てられた本当の意図を読み解く衝撃のラスト、室町末期の大工魂が嬉しいお薦め。

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