虎と月

虎だ!虎だ!お前は虎になるのだ!

父 李徴は虎になったと聞かされて育ち、自分も虎になるのではないかとの怖れを抱いたぼくは、その噂を伝えた袁參の元を訪れ――山月記』(中島敦) *2に込められた驚愕の真実ミステリ。
祭でおきた喧嘩に我を忘れ、「虎のように」大暴れ、しかもその記憶がほとんどない《ぼく》。『山月記』を下敷きに後に残された家族の視点で描いた展開は、超好み。自分もああなってしまうのか、という不安は、確かに14歳という年齢にマッチしています。
李徴が誦じた詩の謎を解き明かす本作の解釈は、『人麻呂の暗号』(藤村由加) *3や『猿丸幻視行』(井沢元彦) *4的で、少々強引に感じないわけじゃありませんが、得られる結論が実に世界観にマッチ。『成吉思汗の秘密』(高木彬光) *5で「成吉思汗」を「吉成りて水干を思う」「なすよしもがな」と読んじゃうときのような、「こうであったらいいかも」と思わせるパワーがあります。
山月記』だと「袁2aa;」になっている文字が、本書では「袁參」になっています。あえて人偏を削除して《人ではない》ものにしたところにも、作者のたくらみがあるのかもしれません。

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