妖精島の殺人

マイケル・ジャクソンがミステリマニアだったら
著:山口芳宏 画:toi8 講談社ノベルズ*1 *2

街が消失して妖精が出現、個人所有の竹原島に迷い込んだ男の体験談に危険な真実を感じた真野原は、森崎と菜緒子を先に島へ送り込むが――奇譚ミステリ設定のてんこ盛り。
ちょっといい雰囲気になった美女を追って奇妙な体験をした派遣社員 柳沢ですが、なんだかちょっと良い目を見すぎのような気も。問題を抱えた女の子が突然やってきて、のラブコメで、シリアス部分で失敗した主人公、と思えば良いのかもしれません。
本作では、「この初速度を人が出すのは無理」という文脈で数式を使っているんですが、高い塔から落下して死んだ、みたいなミステリーで、重力加速度gを含む数式を使って水平方向の初速度を求めているのを見たのは初めてかも。空気抵抗を無視したときの「堀を超えるための最小速度」の真実の値を求めたいのだとしたら、斜め上に飛び出す場合を考えないと駄目だよなー、とか、高校時代の物理のテストを思い出しました。
導入部は『パノラマ島綺譚』(江戸川乱歩) *3を思わせる体験談の後は、『そして誰もいなくなった』(クリスティー) *4のような絶海の孤島で悪事の懺悔、富豪が作った違法建築感あふれるお堀と古城。伊勢海老と鮑と松坂牛の盛り合わせみたいな、満艦飾の一作。