仮想儀礼

♪あたし悲しい人形使い いくら逃げても引き戻されて
著:篠田節子 写:Yang Liu/Corbis/amana images 新潮社*1 *2

企画屋 矢口の口車に載って公務員を辞め、ゲームブック執筆に没頭した鈴木は、プロダクションの倒産で路頭に迷い、二人で宗教という事業を始めることにするが――コンテンツ事業としての宗教サスペンス。
信徒から金を絞り取るカルトではなく、「継続的な事業」として宗教をとらえることで、お話の内容が良心的になり、鈴木の教祖としてのカリスマ性を向上するところが何とも逆説的。
信徒がどんどん増えていく上巻は、作家が、自分の作品に疑問を抱きつつもファンの支持を獲得して大人気になっていく過程に似た、苦い成功ストーリーになっています。『シークエンス』(みずき健) *3や『ぼくの地球を守って』(日渡早紀) *4のヒットの影響で自殺を指向するようになってしまったファンに苦慮する作者のエピソードみたいな。
一方の下巻は、教祖である自分を《コンテンツ》として消費する信徒やマスコミ、世間の一言一句に振り回される悲哀。芸能人没落物語、とか、マニアの言うことを聞きすぎて一般人からの支持が減っていく作家、な感じでしょうか。
小説や漫画、ゲームですら、作品と作者を切り離すのが困難だというのに、自分自身をコンテンツの主要な一部としなければならない《教祖》という職業の悲しさ辛さが、心に強く残りました。

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