鬼の跫音

三つ目小憎の国では、普通の人間は《異常》
著:道尾秀介 画:下田ひかり 角川書店*1

友人Sを殺して埋めた私の犯罪を知っている、あのときの鈴虫の声が、今でも私の耳に――完全犯罪をなしとげられなかった男を描く「鈴虫」ほか、全6篇のホラー短篇集。
土曜ワイド劇場『原色の蝶は見ていた・死のにおい』(由美かおる) *2では、殺人者の元に蝶がやってくる理由がきっちり説明されるせいで最終的には怖さがなくなっちゃいますが、犯人の異常性に帰着される「鈴虫」は大丈夫。
一月八日から一日までを逆にたどる「冬の鬼」は、正月にありがちな風景がしっかり真相の伏線になっているところが怖い。
石持浅海が描く登場人物にも《異常》なところがありますが、石持浅海の《異常さ》って、脳のプログラムにバグがあって暴走したときのような印象。一方、道尾秀介の《異常さ》は、もっと肉体的に攻めてくる。家族を殺すと脅迫されたときの《痛み》と、自分に拷問を受けているときの《痛み》の差みたいな。
ただ、ここまで《異常》な人の話が続くと、かえって怖くなくなっちゃうところが読者心理の我が儘なところ。百物語が最後までなかなかできないのは、途中で怖い話が笑い話に変わっちゃうからなのかも、なんて思いました。

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