桜色ハミングディスタンス

yomimaru2005-11-20

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私は桜庭一樹である。PCのディスプレイをくぐり抜け、相方ヒロシとともに島を進む真理子が到着した学園は、海賊船からの攻撃を受けていた。生きて還れるのは一人だけ――期間限定ブンガクユニットblackcherry bobがおくるメタ・ライトノベル・ラブストーリー。
桜庭一樹桜坂洋文学フリマに参加して本を出す、という行為を文章に綴る真理子がヒロシに出会うために出掛け、と、現実と虚構が多重に折り重ねられたメタな構造の本作。作者二人が互いのテキストを勝手に書き換える語り口には、20年前に美味しんぼ(雁屋哲/花咲アキラ) *2で初めてカツオの刺身にマヨネーズを見たときのような、食べずにいると先入観で「げっ」と思うけど、食べ始めてみるとやめられない「新しい旨さ」があります。
作者二人がこちらの現実で初めて出会ったのは、東京會舘で開催されたSF大賞の受賞パーティとのことですが、その東京會舘を舞台にしたクライマックスの第11章が、特に凄い。心が震えます。
商業出版では難しいテキスト相互書換え合作により、《テキストを侵蝕する現実》だけでなく、《テキストに侵蝕される現実》を鋭く描き、作者自ら自作を発表する同人誌という文化を隅から隅までしゃぶり尽くした怪作。脱稿後の二人の対談が掲載されたペーパー「BCB通信」を読んだ後に読み返すとまた良し。
一人しか帰れない条件下で二人がどうやって帰るのかのミステリー風味に、ゲームノベルあり自作パロありと、読者サービス満載の本作、お薦めです。
関連リンク集

*1:同人誌 2005年11月20日発行 A5版 本文160頁 500円

*2:ISBN:4091807518 blogmap MM bk1 junku ac amazon