容疑者Xの献身は原本格じゃない
直木賞を受賞した容疑者Xの献身(東野圭吾) *1。本格推理かどうかが話題になっていたこの作品ですが、本格ミステリベスト10(原書房) *2とこのミステリーがすごい!(宝島社) *3の2つでいずれも1位。
でも、この2冊のランキング本を見ていると、やはり温度差があります。どんな小説にも、「広義のミステリ分」「本格推理分」「一般小説分」といった成分があって、この成分の比率が異なるんじゃないか、それが入賞作や得点の違いになる、なんて妄想を膨らませていると、このラノ占いやSFが読みたい!*4の分析と同様に、またまた割り算で攻めることができそうだ、と思いつきました。
このミスは本格ベストに比べて、「本格推理分」よりも「広義のミステリ分」に重きを置いたランキングになっているはずです。ならば、割り算を使えば、「広義のミステリ分」をある程度打ち消して、「本格ミステリ分」を強調できるんじゃないか。
このミスの得点に対する原書房の本格ベストの得点の比率を使えば、「本格推理分」の新たな指標が抽出できるような気がします。
原本格度 = 本格ベスト得点/このミス得点
この計算式で表される原本格度が高い作品を、《原本格》と定義することにします。分析結果は以下の通りです。
作 品 | 原本格度 = (本格/この) | 本格 | この | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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交換殺人には向かない夜 | 118 - 10.73 | 118 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
館島 | 69 - 6.27 | 69 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
『ギロチン城』殺人事件 | 46 - 4.18 | 46 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
御手洗潔対シャーロック・ホームズ | 42 - 3.82 | 42 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
クドリャフカの順番 | 39 - 3.55 | 39 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
モロッコ水晶の謎 | 37 - 3.36 | 37 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
羊の秘 逆説探偵 | 35 - 3.18 | 35 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
fの魔弾 キルケーの毒草 切断都市 | 31 - 2.82 | 31 | - | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
模像殺人事件 | 5.85⇒ | 76 | 13 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
弥勒の掌 | 4.13⇒ | 161 | 39 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
摩天楼の怪人 | 3.69⇒ | 118 | 32 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
ゴーレムの檻 | 3.52⇒ | 81 | 23 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
ニッポン硬貨の謎 | 2.65⇒ | 143 | 54 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
笑酔亭梅寿謎解噺 | 2.52⇒ | 58 | 23 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
扉は閉ざされたまま | 2.29⇒ | 247 | 108 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
デカルトの密室 | 1.97⇒ | 63 | 32 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
三百年の謎匣 | 1.87⇒ | 101 | 54 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
ユージニア | 1.63⇒ | 31 | 19 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
神様ゲーム | 1.54⇒ | 129 | 84 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
天使のナイフ | 1.48⇒ | 46 | 31 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
ルパンの消息 | 1.39⇒ | 39 | 28 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
(境界) | 1.26⇒ | 82 | 65 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
モーダルな事象 | 1.23⇒ | 53 | 43 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
容疑者Xの献身 | 1.05⇒ | 359 | 341 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
犬はどこだ | 0.95⇒ | 62 | 65 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
島崎警部のアリバイ事件簿 | 0.85⇒ | 55 | 65 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
痙攣的 | 0.69⇒ | 40 | 58 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
死神の精度 | 0.66⇒ | 38 | 58 |
このミスで投票した評者が1人以下の作品については、誤差が大きくなるため、 この色 で範囲を表わしました。2冊のランキングで上位に入っている作品は、「原本格度⇒□」のように表記して、□の位置でその原本格度の大小を表しています。本格ベストで上位に入っていない作品は、計算対象外としました。
表中の「(境界)」は、本格ベストの評者人数をこのミスの評者人数で割った値で、これよりも上ならば原本格度が高く、下ならばこのミス度が高い、ということができます。
早速、容疑者Xの献身の位置を見てみましょう。見事にこの「(境界)」付近。幅広い層の多くの人に支持されていることがわかります。裏から言えば《原本格》ではないことになります。
支持層が比較的広い《原本格》は、模像殺人事件(佐々木俊介) *5、弥勒の掌(我孫子武丸) *6、ゴーレムの檻(柄刀一) *7。どれも未読なので今度読んでみよう。
尖った《原本格》ベスト3は、交換殺人には向かない夜(東川篤哉) *8、館島(東川篤哉) *9、『ギロチン城』殺人事件(北山猛邦) *10。完全に上位2作を占めていることから見ても、東川篤哉は、圧巻の原本格作家であることがわかります。
ミステリレーベルから出た 犬はどこだ(米澤穂信) *11よりもミステリ文庫から撤退(?)した角川から出た クドリャフカの順番(米澤穂信) *12の方が《原本格》だなんて、わたし、気になります。
最下位の 死神の精度(伊坂幸太郎) *13、この作品が《原本格》じゃないって結論は、何となく納得がいきませんか。
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*1:ISBN:4163238603 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*2:ISBN:4562039728 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*3:ISBN:4796650334 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*4:ISBN:4152087064 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*5:ISBN:4488012035 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*6:ISBN:4163238107 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*7:ISBN:4334076068 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*8:ISBN:4334076203 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*9:ISBN:4488017142 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*10:ISBN:4061824163 blogmap MM bk1 junku ac amazon
*11:ISBN:4488017185 blogmap MM bk1 junku ac amazon