弱法師

yomimaru2007-03-08

bk1
著:中山可穂 画:小林直未 文春文庫*1

能楽「弱法師」「卒都婆小町」「浮舟」をモチーフに、かなわぬままにあの世に消える恋を鎮魂して昇華する珠玉の短篇集。
同じ趣向の 近代能楽集(三島由紀夫) *2は、戯曲だけあって当然に、セリフ主体で地の文は殆どない、そして口に出して綺麗な文言で綴られているんですが、本作は、小説の体裁を重んじる形式の恋愛譚。
弱法師とくれば、弱者の地位を利用して周りの人間を意のままに動かす美しい子、卒都婆小町なら、できそうもない百回の願掛けを男に仕掛け、やはり達成されずに苦しむ女、そして浮舟は、三角関係の果て板挟みに疲れての緩慢な自殺、と、定番のモチーフがあり、あとはこれにどのように作者なりの味付けをするかが見処。
父 香丞、母 文音、叔母 薫子の三人の関係を見る娘 碧生を描く「浮舟」なんですが、人名を見ただけで*3もともと誰と誰が恋人関係で、誰が誰のふりをして誰と契りを結んで、という展開は予想されつつも、この流れには結構驚き。
近代、現代ときたからには、次はノベルゲームにでもならないかしら。そのときは、如何に生きたままハッピーエンドに持って行けるか、がシナリオライターの腕の見せ処ですね。

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