ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!

著:深水黎一郎 表:岩郷重力+WONDER WORKZ。 講談社ノベルス*1

究極のトリック「読者が犯人」のネタを自分の命に賭けて売り込もうとする突然の手紙に、新聞連載に苦しむ私は心惹かれるのを止められず――殺人って何ミステリ、第36回メフィスト賞受賞作。
日本では刑法上の殺人罪故意犯なんですが、ミステリでは、正当防衛、過失致死、緊急避難でも殺人と同等の扱いをするのが当然とされているような感じがします。
自慢にならない三冠王?(賀東招二) *2収録の「大迷惑のスーサイド」では、自殺を仄めかして体育祭中止を求める手紙に対して、生徒会長 林水が冷静な判断「中止せずに自殺したとしても悪いのは自殺者」を下しますが、本作のトリックはこれとは対極的。殺人を防止できなくて罪悪感を抱く探偵が数多く登場してきたミステリーならではの展開です。
超能力を研究するため、世を忍ぶ仮の姿として心理学教授を選んだ古瀬博士のドグラ・マグラ(夢野久作) *3の博士達のような大仰な自己陶酔言葉遣いが、戯画的で気に入りました。こんなに粗雑な超能力実験をやっていては、悲願の超心理学専攻は遠いぞ、なんて思うぐらいなんですが、オチに対するちゃんとしたスパイスになっていて好印象。
作家《私》に対する売り込みの手紙、《私》の一人称で綴られる日常とくれば、叙述トリックが何らかの形で使われているはずで、あとはどういう使い方をするか、が決め手。弁が立つブログサイトの評論に説得されかかったときのようななるほど感の気分が楽しめる一冊です。

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