エンデの島

著:高任和夫 画:佐久間真人 光文社*1

退職した出版社からインタビューの仕事を請けて糊口をしのぐ門倉は、移住ブームの奥ノ霧島へ取材に向かうが、頼母子と地域通貨に湧く現地は――金の奴隷にならないミヒャエル・エンデの理想に挑戦する経済小説
相互扶助の理想郷を描いたポラーノの広場(宮沢賢治) *2では、構成メンバーが欲を捨ててこそ成立するという感じなんですが、本作では、どうやったら人の《欲》を導けるかを練り込むことに力を注いでいます。容積率建蔽率を制限することで内地の大規模観光業者の参入を防止したり、無利息ファンドや各種支払いに現地通貨を使うことで円の流出を防止して島内の経済活性化を図ったり。
伊丹十三に、重い所得税に対抗して物々交換で暮らす短篇があるんですが(小説より奇なり*3か日本世間噺体系*4に収録されていたはず)、国への従属度合を低くする、という意味では本作と共通しています。功なり名とげた人をうまく使った議会での多数派工作戦略のしたたかさや、円よりも地域通貨を優先させるための目に見えない締め付けを見ると、やっぱりリーダーのカリスマを頼りにするだけでは駄目で、金の奴隷にならない世界でも《経営者》や《政治家》が必要、という感じ。
自然発生的にインフォームドコンセントや健康保険が成立するおっちょこちょ医(なだいなだ) *5にも共通する、風が吹けば桶屋が儲かる感がちょっとあります。暗黒面が見えればもっと良かったかも。
地域通貨オッキを推し進めることができた原動力が判明する結末は皮肉です。

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