卵の緒

著:瀬尾まい子 画:霜田あゆ美 新潮文庫*1

親子の証拠にへその緒を見せてといったら、母さんは割れた卵の殻を出して、僕を卵で産んだといった――捨て子の僕を描く表題作を含む2篇の優しい作品集。
《母さん》の《僕》に対する愛の言葉の数々は実に直球勝負なんですが、からっとした性格がうかがえるせいか、まったく気恥ずかしくないところが魅力。
自由な子供の感性なんて言い方がありますが、たとえばホームルームにおける「○○はいけないと思います糾弾集会」のように、子供って、規則や命令を絶対視して必要以上に縛られ、しかもそれを自覚していなかったりしてるような気たします。そういう杓子定規的な子供の典型が《僕》で、それに対して適度に自由な発想で切り返すのが《母さん》。こういう余裕があるのが、大人、ということなのかもしれません。本作内で登校拒否をしている池内君にも、ある意味で学校を相対化した余裕があり、《僕》よりも大人に感じられます。
もう一篇「7's blood」は、異母弟の母が刑務所に入るため、彼と同居することになった姉の当惑がテーマ。ケーキのエピソードがAll You Need Is Kill(桜坂洋) *2にちょっと似ています。敢えて行うときに、二人でやるか、一人でやるか、が女と男の情感の差なのかも。
両作とも、さらりと冗談のように、男の子同士の情愛に理解を示す女の子の姿が出てきていて、時代の流れを感じます。お薦め。

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