水上のパッサカリア

著:海野碧 写:Amanda Marsalis/Getty Images 光文社*1

飼い犬ケイトを残して奈津が交通事故の現場で死んでから半年足らず、ベッドをシングルに買いかえる必要があると思った私は――第10回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
時折思い出したように過去のエピソードが挿話される構成の本作は、誰が犯人か、のミステリーではなく、だれそれはどういうやつ(だった)かを解くミステリーで、解くべき謎が明示されるのではなく、オチを見て確かにそうだ、こいつならそうなる、と思わせる構成の妙があります。読み返してみると、確かに嘘は言ってないし。
愛した女の死がもたらしたのは、哀しみだけではなかった、なんて帯の煽りから予想される男の痩せ我慢的美学とかとは無縁で、強い執着がほとんどなく、金にも困っておらず、ある種枯淡の域に達した男の語りが淡々と続き、女に振り回される 彼女はたぶん魔法を使う(樋口有介) *2系の貧乏臭さはほとんどない、読点でどんどん文を繋いだ長文に悟りを開いた読経的な印象すら受けるハードボイルド。
コンゲームものっぽい用意周到な《私》の行動が、奈津の死の真相が解明されるシーンでも効いてます。お薦め。

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