吉原手引草

著:松井今朝子 画:宇野信哉 幻冬社*1

身請けが決まった高級娼婦カツラギが失踪してから75日、歓楽街ヨシワラに住む17人の面々から聞き取ってみれば、その裏には――肝のすわった花魁の真相に迫る吉原観光ミステリー、第137回直木賞受賞作。
受賞予想では対抗に推していた本作。その構成は、関係者の証言を重ねて事件の真相に迫る直木賞受賞作 理由(宮部みゆき) *2に似てますが、語られるだけのヒロインの像が絶えずぶれている悪女について(有吉佐和子) *3白夜行(東野圭吾) *4とは逆に、話が進むごとに花魁 葛城の像の焦点がどんどん合ってくる感じ。
吉原という舞台は、確かに日本のかつての姿なんでしょうけど、詳細にその《設定》が語られる本作を読んでいると、たとえば、マルドゥック・スクランブル(冲方丁) *5 *6 *7の世界観やSFガジェットの説明を読んでいるときと同じ感覚にとらわれます。マルドゥック〜の少女娼婦バロットが旅立っていくまでをその他の登場人物たちが語ったとしたらこうなる、といったらいいでしょうか。
同じ吉原花魁ものでも、映像で攻めてくる さくらん(安野モヨコ蜷川実花)*8とは異なり、圧倒的な蘊蓄が文字で攻めてくる本作は、実は設定マニア向けかも。
時代劇でありがちな目的を果たして死んで終わりではなく、失踪して生きたまま終わる力強さが、実は現代風なのかもしれません。お薦め。

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