エノーラ・ホームズの事件簿 消えた公爵家の子息

著:ナンシー・スプリンガー 訳:杉田七重 画:甘塩コメコ 小学館ルルル文庫*1

シャーロック・ホームズの歳の離れた妹エノーラ(14)は、暗号好きの母の突然の失踪に戸惑うが、寄宿学校で貴族の子女の教育を受けよと長兄マイクロフトに命じられ、家を飛び出す――ヴィクトリア朝時代を舞台にした反コルセット反バッスル冒険譚。
ALONEの逆になっているエノーラ(ENOLA)の名前なんですが、本作の中心テーマが孤独からの自立・独立なだけに、名は体を表す感じ。作中に登場する暗号は、これに合わせて転置式が殆どで、換字式の「踊る人形」/『シャーロック・ホームズの帰還』(コナン・ドイル) *2とは異なります。
レストレードやマイクロフトといった体制側からは一歩距離をおいた立場のシャーロックも、エノーラや彼女の母から見れば、抑圧的な男という体制側の人間であるところがちょっと斬新。ヴィクトリア朝の女性が受けた困難が、今日的な観点から鋭く批判されています。
男にも女にも頼らないエノーラの姿勢は、恋愛ロマンスからはほど遠いんですが、男社会の嫌な部分がここまで出てくると、それも頷けます。
続篇が出るとしても、兄に頼らず、ときに兄を出し抜いて活躍する展開を希望。

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