日傘のお兄さん

著:豊島ミホ 画:小林直未 新潮文庫*1

両親の離婚騒動で行き場のなかった夏実の保育園時代に大好きだったお兄さんは、今やロリコン男としてネットに追われる身で、中学生になった彼女に助けを助けを求めるが――男と女には色々あるさ、二人の逃避行ラブストーリー。
明確な犯罪をしたわけでもないお兄さん。「幼ない可愛い女の子に声をかける眼鏡男」だけではありがちで、ここまでネットや噂に追われることもなかったところなんですが、「日傘をさしている」という、ある種異様な風貌が、都市の怪談を生み出す原因になっているのかも。そういえば、マスクをした女って、花粉症がメジャーになった今では珍しくないですが、口裂け女が流行した時期は、異様な風貌だったような気がします。
大好きなお兄さんと思い出の庭に《駆け落ち》する夏美は、登校拒否で文系のお兄さんとは違って、体育会系の元気娘。動き出したら止まらない行動力が光ります。お兄さんに対する心の中でのツッコミにまったく容赦がないところもいい。
トワイライト・トパァズ(佐々原史緒) *2や占者に捧げる恋物語(野梨原花南) *3は、ずっと一緒に暮らしているしっかり娘から駄目男が「俺と一緒にいるよりも他で幸せを探せ」と逃げ出そうとして果たせないラブストーリーですが、本作は、離れていた二人が再開して、と、前提に一拍おいた展開のせいもあって、駄目男たるお兄さんの屈折とか暗い欲望とかが、より一層増してます。
狡くて汚なくて情けなくて、それでも大好きなお兄さんに対して夏美が切る 気っ風の良い啖呵、好きな相手でも手加減なしのクライマックスが素敵。お薦め。

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