このラノ2008分析(2) ファン層の経年変化

編集部が依頼した協力者と、ウェブ投票者や一般人から選んだモニターが違う持ち点で投票した総合ランキングを毎年発表する『このライトノベルがすごい!』。
このランキングに対しては、以前から、「このラノ値」という指標を使って種々の分析を試みています(→2005年版2006年版2007年版)。「このラノ値」は、作家ごとにこんな風に計算した指標です。

このラノ値 = 得点計/票数計

レギュレーションが一緒の2006年・2007年・今回の3回連続で3年連続で60位以内に入った作家は28名。その「このラノ値」の変化をグラフにしてみました。


横軸は年、縦軸は「このラノ値」です。このレギュレーションでは、各投票者の持ち点は、協力者は、1位10点〜5位6点、ウェブおよびモニターは、1位5点〜5位1点。「このラノ値」を変動させる要因をもう一度確認しましょう。

  1. マニアが支持 … 協力者が投票すると「このラノ値」は大きくなる。
  2. 熱狂的ファン … ウェブ投票者やモニターが高順位(1位や2位)で投票すると「このラノ値」は大きくなる。

ウェブ投票者の数の増加で「このラノ値」の意味合いが変化しつつあることが前回の分析でわかりました。今回の分析では、ここ3年のランキング上位60位に連続して登場した作家の「このラノ値」がどのように変化したのかを観察してみたいと思います。
折線グラフの時間変化の形状から、安定型(上下の変動幅が0.5以内)、下降型(全体として減少、一時的に増加しても0.3以内)、上昇型(全体として増加、一時的に減少しても0.3以内)、変化型(その他)の4グループに分けてみました。
それでは、各グループごとに傾向を見ていきましょう。

安定型

このラノ値」の上下の変動が0.5以内の安定型に分類された作家は、雪乃紗衣谷川流西尾維新時雨沢恵一高橋弥七郎喬林知甲田学人結城光流ハセガワケイスケ鎌池和馬成田良悟 の11名です。
値が安定するためには、先物買いしがちなマニアの投票の寄与が低いこと、熱しやすく冷めやすい一時的ファンが少ないこと、といった条件を満たす必要があります。
つまり、ベテランやお馴染みの人気作家が、安定型になると言えそうです。確かに「定番の風格」がただよう作家がほとんど、という感じですね。

下降型

このラノ値」が全体として減少し、一時的に増加しているとしても0.3以内の下降型になった作家は、有川浩今野緒雪ヤマグチノボル竹宮ゆゆこ山形石雄 の5名。
今野緒雪は、境界値の設定の影響で下降型に分類されましたが、値は3.0前後とかなり低いところにとどまっており、安定型と見ても良いような変化ですね。
ヤマグチノボル有川浩竹宮ゆゆこは、2007年の「このラノ値」が、その平均値3.2861にかなり近い状況になっています。当初の協力者中心の支持が、ウェブ投票者にも広がった、ということでしょうか。
山形石雄は、減少傾向にはありますが、その値は4.0近くでかなり高い値にとどまっています。ウェブ投票者にもいくぶん支持が広がってはいますが、やはりマニア好み、ということなのかもしれません。

変化型

現状維持でも減少でも増加でもない、「へ」の字や「V」の字に値が変化しているのは、壁井ユカコあざの耕平桜庭一樹林トモアキ葉山透渡瀬草一郎 の6名。
当初文庫で刊行された本がレーベルや体裁をかえて再発行された作家が結構います。もちろん、再発行の時期は、今回の投票に直接関係ないのかもしれませんが。
それでも、変化型に分類された作家には、何がしか、クセのあるような気もします。出身レーベルの本道からちょっと外れている雰囲気、というか。
果たしてこの傾向がどう変化するのか、来年の結果を見守りたいところです。

上昇型

このラノ値」が全体として確かに増加しており、一時的に増加しているとしても0.3以内の上昇型は、海原零十文字青賀東招二 のわずかに3名。
海原零が一貫して上昇し続けている傾向が目立ちますが、『銀盤カレイドスコープ』の続刊刊行や完結など、毎年何がしか、マニア心をくすぐる事情があったのが、この結果となったのかも。
薔薇のマリア』の十文字青は、高止まり。票数から考えると、一旦獲得した熱狂的ファンを引き止めて離さない、といえそうです。
作家的立ち位置からすると、安定型に分類されてしかるべき『フルメタル・パニック!』の賀東招二。2006年・2007年は確かに安定型なんですが、2008年に「このラノ値」が急上昇。この増加度合は、28名の中で最大級です。
受賞作家インタビュー(p.38〜)では、インタビュアーが、最近の巻の展開に「グッ」とくるものがあったから、と分析していますが、果たしてそれだけで説明がつくのか。

柊カガミの陰謀

「覚えていますか、僕が、このランキングはかがみさんによって作られたのかもしれないと言ったこと。彼女には願望を実現する能力がある」
そんなことを大まじめに断言するな。そんなはずがあるか。
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「かがみさんは、『フルメタ』が一番人気に違いない、そうであって欲しいと願った。だから『フルメタ』が1位になる。同様に宗介とガウルンが♥であって欲しいと願った。だからコミケガウルン×宗介本が出てしまう。賀東招二も、彼女に願われたからというただそれだけの理由で『らき☆すた』の脚本を書いたのですよ」
なぜそんなことが解る。
「かがみさんがそれを願った、という証拠がほかにもあります。『このラノ2008』の39頁下段から40頁上段を見てください」

ミリタリーアクションを
書きたかった
――フルメタ』は、学園ものをめざし
たわけじゃなかったんですよね。

賀東 もともとはロボットものの長編
ミリタリーアクションの世界観です
ね。ちょっとハードめのB級アクショ
「かがみさんの精神が不安定になると、この世に影響が及ぶ。なぜそれを知ってしまうのかは僕らにも謎です。なぜだか影響が出る場所がわかってしまう」
もったいぶるな。この文章がどうした。
賀東招二の発言の先頭を見てください」
ヤツは赤ペンを取り出すと、インタビュアーの発言に線を引いて行の冒頭に丸をつけた。*2
ミリタリーアクションを
きたかった
――フルメタ』は、学園ものをめざし
たわけじゃなかったんですよね。

東 もともとはロボットものの長編
リタリーアクションの世界観です
ね。ちょっとハードめのB級アクショ
「書、賀、ミ――。かがみ。親愛なる作家に言及されたい、という彼女の願望がここにも現われているんです」
何だコレは。縦読みかよ。赤を背景にして中途半端に並んだ赤丸は、なんかの間違いで真夏に咲いてしまったボタンのようである。いやもう自分でも何の例えなんだか解らん。
というか、こんなことに気付くか?

エピローグ

いや、本当は気付いていたのだろう。ただ気付きたたくなかっただけなのだ。俺は心の底からかがみんが目の前に出てきてくれることを望んでいたのだ。
だから、次に彼女が現われたときには、ゆっくり願いを聞いてやろう。その際に俺も色んなことを話してやりたいと思う。最初に話すことは決まっているのだ。
そう、まず――
独立成分分析の結果について話してやろうと俺は思っている。
初読の感想 このラノ2008分析 第1回

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*1:ISBN:9784796661409 bk1 junku rak amazon mono lnm rcl

*2:丸印は赤字で表記。