このミステリーがすごい!2008年版 vs ミステリが読みたい!2008年版

本格ミステリ・ベスト10』(原書房) *3が「本格」に限定しているのに対して、より広い範囲でミステリをとらえたこの二つのミステリランキング。
対象作品の発行時期が1箇月ずれているだけで ほぼ重なっているのに、その順位にはかなり差があります。
そこで、以前からランキング分析で使用している独立成分分析を使用して、この2つのランキングを比較してみました。
独立成分分析は、脳波の分析や音波・画像の分離などに利用される分析手法です。理論的背景をすっとばして大雑把にいうと、「ステレオ録音されたピアノの弾き語りを、『ボーカルの声』だけの音声と『ピアノの音』だけの音声の2つに分離する」ことができる、という感じ。
『このミス』の投票者には作家がほとんどいませんが、『ミス読み』の投票者にはかなり作家が含まれています。
両者で投票者の分布が違うことから、独立成分分析器に、「右音声」として「『このミス』のポイント数列」を入れ、「左音声」として「『ミス読み』のポイント数列」を入れてみれば、出力の「ボーカル声」として「ある層の好みの度合(ベクトルA)」が得られ、「ピアノ音」として「別の層の好みの度合(ベクトルB)」が得られそうです。
両方のランキングに登場する作品について分析した結果、2つのベクトルAとBが得られましたが、独立成分分析の結果には定数倍の自由度があるため、(-A)と(B)にして、数値順にソートしてみました。

 作品(-A)
1楽園3.80
2首無の如き祟るもの1.39
3悪人1.12
4離れた家0.73
5吉原手引草0.68
6密室キングダム0.63
7青に候0.62
8サクリファイス0.61
9片眼の猿0.31
10中庭の出来事0.31
11X橋付近0.19
12赤朽葉家の伝説0.19
13果断-0.42
14インシテミル-0.57
 作品(B)
1赤朽葉家の伝説4.10
2首無の如き祟るもの2.89
3果断2.81
4離れた家2.53
5サクリファイス2.41
6楽園2.01
7X橋付近1.63
8インシテミル1.59
9密室キングダム1.27
10悪人1.09
11中庭の出来事0.86
12片眼の猿0.86
13青に候0.61
14吉原手引草0.56
作家によるランキング」と「非作家によるランキング」が出るんじゃないかな、と期待していたんですが、得られた結果はちょっと違うみたい。ざっと見た印象では、こんな感じでしょうか。

  1. (-A) … 評価の定まった作家の作品が好きな安定指向の人のランキング
  2. (B) … 最近目立っている作家の作品が好きな変化指向の人のランキング

そこでさらに、この印象が正しいかを確認するため、(-A)内での順位と(B)内での順位の違いに注目してみます。

{-A}{B}作品
5(-9)14吉原手引草
3(-7)10悪人
7(-6)13青に候
1(-5)6楽園
6(-3)9密室キングダム
9(-3)12片眼の猿
10(-1)11中庭の出来事
2(0)2首無の如き祟るもの
4(0)4離れた家
{-A}{B}作品
12(11)1赤朽葉家の伝説
13(10)3果断
14(6)8インシテミル
11(4)7X橋付近
8(3)5サクリファイス
{-A}の方が支持が高いのは、松井今朝子吉田修一志水辰夫宮部みゆき
{B}の方が支持が高いのは、桜庭一樹今野敏米澤穂信高城高

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)離れた家―山沢晴雄傑作集 (日下三蔵セレクション)

こうやって並べて作家の受賞歴などを考えると、(-A)が安定指向、(B)が今話題指向というのにも納得がいきます。
そんな中で、(-A)(B)の両層で高い評価を得ているのは『首無の如き祟るもの』(三津田信三) *4と『離れた家』(山沢晴雄) *5。『首無〜』は既読なので、『離れた家』を読んでみようかしら。
本格ミステリ・ベスト10 vs このミステリーがすごい! 2008年版 週刊文春ミステリ・ベスト10 vs このミステリーがすごい!2008年版

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