『本格ミステリ・ベスト10』(原書房) *3が「本格」に限定しているのに対して、より広い範囲でミステリをとらえたこの二つのミステリランキング。
対象作品の発行時期が1箇月ずれているだけで ほぼ重なっているのに、その順位にはかなり差があります。
そこで、以前からランキング分析で使用している独立成分分析を使用して、この2つのランキングを比較してみました。
独立成分分析は、脳波の分析や音波・画像の分離などに利用される分析手法です。理論的背景をすっとばして大雑把にいうと、「ステレオ録音されたピアノの弾き語りを、『ボーカルの声』だけの音声と『ピアノの音』だけの音声の2つに分離する」ことができる、という感じ。
『このミス』の投票者には作家がほとんどいませんが、『ミス読み』の投票者にはかなり作家が含まれています。
両者で投票者の分布が違うことから、独立成分分析器に、「右音声」として「『このミス』のポイント数列」を入れ、「左音声」として「『ミス読み』のポイント数列」を入れてみれば、出力の「ボーカル声」として「ある層の好みの度合(ベクトルA)」が得られ、「ピアノ音」として「別の層の好みの度合(ベクトルB)」が得られそうです。
両方のランキングに登場する作品について分析した結果、2つのベクトルAとBが得られましたが、独立成分分析の結果には定数倍の自由度があるため、(-A)と(B)にして、数値順にソートしてみました。
| 作品 | (-A) |
---|
1 | 楽園 | 3.80 | 2 | 首無の如き祟るもの | 1.39 | 3 | 悪人 | 1.12 | 4 | 離れた家 | 0.73 | 5 | 吉原手引草 | 0.68 | 6 | 密室キングダム | 0.63 | 7 | 青に候 | 0.62 | 8 | サクリファイス | 0.61 | 9 | 片眼の猿 | 0.31 | 10 | 中庭の出来事 | 0.31 | 11 | X橋付近 | 0.19 | 12 | 赤朽葉家の伝説 | 0.19 | 13 | 果断 | -0.42 | 14 | インシテミル | -0.57 |
| | 作品 | (B) |
---|
1 | 赤朽葉家の伝説 | 4.10 | 2 | 首無の如き祟るもの | 2.89 | 3 | 果断 | 2.81 | 4 | 離れた家 | 2.53 | 5 | サクリファイス | 2.41 | 6 | 楽園 | 2.01 | 7 | X橋付近 | 1.63 | 8 | インシテミル | 1.59 | 9 | 密室キングダム | 1.27 | 10 | 悪人 | 1.09 | 11 | 中庭の出来事 | 0.86 | 12 | 片眼の猿 | 0.86 | 13 | 青に候 | 0.61 | 14 | 吉原手引草 | 0.56 |
|
「
作家によるランキング」と「非
作家によるランキング」が出るんじゃないかな、と期待していたんですが、得られた結果はちょっと違うみたい。ざっと見た印象では、こんな感じでしょうか。
- (-A) … 評価の定まった作家の作品が好きな安定指向の人のランキング
- (B) … 最近目立っている作家の作品が好きな変化指向の人のランキング
そこでさらに、この印象が正しいかを確認するため、(-A)内での順位と(B)内での順位の違いに注目してみます。
{-A} | 差 | {B} | 作品 |
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5 | (-9) | 14 | 吉原手引草 | 3 | (-7) | 10 | 悪人 | 7 | (-6) | 13 | 青に候 | 1 | (-5) | 6 | 楽園 | 6 | (-3) | 9 | 密室キングダム | 9 | (-3) | 12 | 片眼の猿 | 10 | (-1) | 11 | 中庭の出来事 | 2 | (0) | 2 | 首無の如き祟るもの | 4 | (0) | 4 | 離れた家 |
| |
{-A}の方が支持が高いのは、
松井今朝子、
吉田修一、
志水辰夫、
宮部みゆき。
{B}の方が支持が高いのは、
桜庭一樹、
今野敏、
米澤穂信、
高城高。
こうやって並べて作家の受賞歴などを考えると、(-A)が安定指向、(B)が今話題指向というのにも納得がいきます。
そんな中で、(-A)(B)の両層で高い評価を得ているのは『首無の如き祟るもの』(三津田信三) *4と『離れた家』(山沢晴雄) *5。『首無〜』は既読なので、『離れた家』を読んでみようかしら。
→ 本格ミステリ・ベスト10 vs このミステリーがすごい! 2008年版 週刊文春ミステリ・ベスト10 vs このミステリーがすごい!2008年版
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