サクリファイス

著:近藤史恵 写:Panoramic Images/Getty Images 新潮社*1

自転車ロードレースのチームでエース石尾を優勝させるために犠牲となるアシスト役を務めるぼくは、かつて彼が飛び出したことが原因の《事故》で引退させられた袴田の話を聞き――誰かのためにしか走れなかったぼくの疾走ミステリー。
プロレス界を舞台にした『誰もわたしを倒せない』(伯方雪日) *2や、ボディビル界を舞台にした『ノーペイン・ノーゲイン』(山本甲士) *3などと同じく、その業界独特の《フェア》に対する考え方が興味深く感じられます。
自分が属しうる世界で超観念的な《フェア》が描かれると、そのありえなさに、たとえば、『扉は閉ざされたまま』(石持浅海) *4のような友情のキモチワルサを感じることがあります。本書で描かれる《フェア》も、冷静に考えれば、そんなキモチワルイ綺麗さがあるのに、決して自分が到達できない世界だと、これもありかな、なんて思ってしまいました。不思議。
自分ではアシスト型だと思っている私なんですが、本作の《ぼく》の心情は、何だかもの凄くしっくりくるところがありました。犠打王 川相のファンだった方にお薦め。

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