留美のために

著:倉阪鬼一郎 画:山田博之 原書房*1

留美と同時期に死んだ羽根木が綴った遺稿「紅玉の祈り」の読書会を開いたミステリーサークルの面々は、その中に秘められた重要な「真実」に気付き――逝くサークルクラッシャー後を濁しまくりミステリー。
『誰のための綾織』(飛鳥部勝則) *2 *3、『君のための物語』(水鏡希人) *4 *5に続き、題名が「〜のため〜」本。前2冊の「ため」は「for」に相当する意味合いなのに対し、本作の「ため」は、さらに、漢文における「為人所制」の「為」的な、受身における動作主体を表す意味も含んでいます。それでは留美は一体何をしたのか。
ファム・ファタルに喩えられる留美に翻弄されるサークルの男達なんですが、他にも女性がメンバーにいるせいか、留美の執着のない等距離外交のせいか、本作当初のサークルの面々の繋がりには妙な安定感があります。
単純に使ったらバカミスと呼ばれそうな謎解きではあるのですが、作中作中作のようなメタな構造のせいでこちらの思考が全然違う方向に向けられてしまい、気付いてみれば見え見えの伏線がそこかしこに大胆にちりばめられています。呆然のお薦め。

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