Y氏の終わり

今時タバコを吸うのはヨーロッパ人に…
著:スカーレット・トマス 訳:田中一江 画:牧野千穂 早川書房*1

指導教官に失踪された大学院生アリエルが古書店でやっと見つけることができた本『Y氏の終わり』は、自分以外のモノの心の中に入り込む秘薬のレシピが書かれたページが破り取られており――時空も種も超えた旅に向かう冒険譚。
読み始めたときは『天啓の宴』(笠井潔) *2や『幻詩狩り』(川又千秋) *3のように、作中作の文章が載らないメタフィクション的な構造なのかな、と思っていたんですが、あっさりと『Y氏の終わり』の文章が出てきて、予想とはまったく違う方向に話が進みました。
三十路系ヒロインのアリエルも含め、登場する男女の(性)生活は、幼い頃からかなり自堕落というか、即物的というか。やたらと煙草を吸うところが欧州風。
2つの人格が頭の中にいるかのような同化の仕方ではなく、融合してしまう同化の描写に迫力。果たしてこの部分はどちらが考えたことなのか、果たしてそういう風に分けることができるのか、この溶け混じった感覚に、『桜色ハミングディスタンス』(桜庭一樹×桜坂洋) *4 *5に通じるものを感じました。

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