L 詐欺師フラットランドのおそらくは華麗なる伝説

この口いっぱいの嘘 炎あふれ出しそう キスじゃなきゃつかめない

無邪気な一人称で女を騙す詐欺師バーンは、偶然飲み込んでしまった魔石《罪人竜の息吹》を追う権力者からの一攫千金を狙うが、嘘をつくと口から炎が――詐欺師の廃業寸前コメディ。
「息吹」という言葉を聴くと、何故か口づけ直前に感じる風の流れとか、甘美なドキドキとか淫靡な想いとか、そんなものが想起されるんですが、本作のキモもまさにそれ。男女合体のオルゴンエネルギーで難題を解決する『魔女でもステディ』(岬兄悟) *2だと、淫靡に過ぎてかえってギャクにしかならないんですが、本作はギリギリの線でドキドキに留まっているところが実に好みです。
自ら生み出した事態に対する対処、という観点からすると、バーンと彼の相談役をつとめる姐御カロリカの関係は、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹) *3 *4の「僕」と「影」の関係をものすごく俗っぽくしたような感じがします。
『ドラゴンキラーあります』(海原育人) *5のリリィ同様、武闘的に強過ぎなヒロイン アーティアの初心を隠した男言葉・師匠言葉が魅力的な一冊です。

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