ヘルマフロディテの体温

♪夜中のパパはちょっと違う 夜中のパパは女だぜ

行方不明になった母が男になった街ナポリで学生生活を送るシルビオは、街に溢れるトランスセクシャルに戸惑いを覚える一方で、自身でも――ランダムハウス講談社新人賞優秀賞受賞作、異形の愛の物語。
アンドロギュヌス、ヘルマフロディテ、両性具有は男でも女でもある満たされた状態であることから、『魔女でもステディ』(岬兄悟) *2では人の理想形として語られていますが、本作で登場する物語は、《男でも女でもない》ことがどういうことか、を追求している印象。
求めるのは真実ではなく、真実だと感じさせてくれる途方もないおとぎばなしだ、と主張するゼータ教授は、『文学少女シリーズ』(野村美月) *3に食べちゃうほどに本が好きな遠子先輩にある意味でそっくり。
女性になろうとする元男たち《フェミニエロ》に対するインタビューと《フェミニエロ》をテーマにした物語の創作をシルビオに命ずるゼータ教授のやり口を見ていると、ずるい手口で心葉に小説を書かせる遠子先輩の姿が思い出されます。
活字の字体が古風で、これが飜訳っぽい耽美な世界観によく合っています。「陽物神譚」(澁澤龍彦) *4や『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』(宇月原晴明) *5系に抵抗がない方にお薦め。

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