キャラクターズ
顔見知りの作家が文学賞を受賞して沈みきったぼく 東浩紀は、同じく衝撃を受けて断筆しかけた桜坂洋と、「文学」になるために「私」を描かなければならない退屈な光景に一撃を与えるため、批評のキャラクター小説化を試みるが――批評家と小説家が互いをえぐる、ライトノベルと批評のウロボロスの環。
書き手自身をキャラクター化した小説といえば、忘れてはならないのがミステリー。たとえば著者探偵同名小説『法月綸太郎の冒険』(法月綸太郎) *2 *3では、図書館司書 穂波にあしらわれる主人公 綸太郎の姿に、現実と虚構との微妙な距離感を楽しむことができます。
その法月綸太郎が『初期クイーン論』*4で論じたのを契機とする後記クイーン問題の一つに、犯人による探偵の《操り》があります。この《操り》を「実行した者とそうするように操った者、真犯人はどっち?」と捉えると、意外にも本作との関連が見えてきます。
デリダの著作の表紙*5を象った本作の表紙は、桜坂洋の《操り》によって東浩紀が文章を書く構図になっています。そういえば、桜坂洋の先の共作『桜色ハミングディスタンス』*6もまた、冒頭の主人公を共著者の桜庭一樹に据えた構造でした。『キャラクターズ』も『桜色〜』も、東浩紀や桜庭一樹が自身をキャラとして描いたかのように、読者に見せることから始まります。
同じ構造で2回の共作を試みている桜坂洋。実は彼は、真犯人として共著者を《操って》いるのでは? 《完全犯罪》に見えた文学的実践だったが、名探偵 前田塁*7は姿を見せない桜坂に不審を抱き――こんな観点からも楽しめる本作、絶対のお薦め!
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- 追記
- 隠された《犯罪》の匂いをかぎあてた名探偵が三軒茶屋にも! 桜坂洋と桜庭一樹の同人小説 『桜色ハミングディスタンス』も示唆に富むプチ書評です。是非。
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*1:ISBN:9784104262021 bk1 junku rak ac amazon mono lnm rcl
*2:ISBN:4062631083 bk1 junku rak ac amazon mono lnm rcl
*3:ISBN:4062734877 bk1 junku rak ac amazon mono lnm rcl
*4:http://www.timebooktown.jp/Service/bookinfo.asp?cont_id=CBJPPL1C09407002
*5:http://blogs.dion.ne.jp/tacthit/archives/4833266.html