マネーロード

お札の寿命も金次第、壱万円は3〜4年、千円は1〜2年
著:二郎遊真 写:伊藤準(TAVOLA) 講談社*1

金の声を聞く力で株の値動きを予見して250億の資産を築き、ホテルに引きこもってホテヘル嬢カズキの自慰行為を見るだけが趣味のヒィ。彼の元に届いた旧千円札には彼の戸籍上の名前が記されており、仕手戦の相手 沢谷から連絡が――金が人を語る第39回メフィスト賞受賞作。
額面千円の伊藤博文日本銀行券の独白から始まる冒頭で、財布が人を語る『長い長い殺人』(宮部みゆき) *2を思い出し、この千円札が人から人へと渡ってきた過去を振り返るストーリーかな、と予想したんですが、本作は、ヒィ、カズキ、沢谷の自分視点の語りに、千円札が間の手を入れる構成でした。
世界の車窓から*3の5分間番組版が三人の語りなら、千円札の語りはスペシャル番組版の女優の台詞。場面場面をどう観賞すべきか誘導してくれる親切さは、作者が映像畑出身だからかもしれません。
海外居留節税をテーマにした『永遠の旅行者』(橘玲) *4 *5では、美少女を絡めることで親しみやすさを演出していましたが、本作でその役割を担うのは、体は許しても心は許さない女子大生カズキ。見た目も心もある意味で綺麗な彼女ですが、その振舞いが、いわゆる《美少年》《美少女》に期待されるものではないところが、ノベルスではなくハードカバー向き、といえるかも。
ヒィの力を信じない自信家沢谷に、勇猛軍人コンスコン*6の姿が重なって、クライマックスの二人の対決シーンは超好みでした。

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